ーエリザベス様式と和風建築の調和ー

青森の自然に囲まれた温泉施設の一角に、近代日本の歴史を背負った邸宅が移築されている。

それが古牧温泉 青森屋に残る、旧渋沢栄一・敬三邸である。

この邸宅は、日本資本主義の父とも呼ばれる、渋沢栄一の孫である

渋沢敬三

が、祖父と共に過ごした住まいとして知られている。

しかし戦後、状況は大きく変わる。

GHQによる財閥解体の流れの中で、渋沢家はこの邸宅を手放すことになる。

その後、この建物を引き継いだのが、古牧温泉 青森屋の社長であった

杉本行雄

彼はかつて渋沢栄一と敬三の秘書として仕え、若い頃からこの邸宅で時間を過ごしていた人物でもある。

単なる建築の払い下げではなく、建物に対する深い思い入れがあったからこそ、この邸宅は保存されることになったのだろう。

この建物の最大の特徴は、洋館と和館が横方向に連続している構成である。

和館は伝統的な日本建築の落ち着いた佇まいを持ち、洋館はエリザベス様式の影響を受けた華やかな空間となっている。

洋館部分は、渋沢敬三の結婚を機に増築されたと言われている。

家族の人生の節目が、そのまま建築の成長として表れている点も興味深い。

異なる文化の建築様式が一つの屋敷の中で自然に連なっている姿は、近代日本の住宅文化を象徴しているように感じられる。

和館の内部で特に印象的なのが階段の造りである。

日本建築の階段は、基本的に「機能的な要素」として扱われることが多い。

意匠的な主役になることは少なく、装飾も比較的控えめだ。

しかしこの邸宅では、階段の支柱に独特の意匠が施されている。

柱の形状を工夫することで、空間にさりげない個性を与えているのである。

構造的に重要な部分に過剰な装飾を施すのではなく、比較的自由度の高い部分にデザインを集中させている。

この判断は非常に合理的でありながら、美しさも兼ね備えている。

洋館に入ると、空間の雰囲気は一変する。

天井には連続する幾何学模様が施され、室内には華やかなインテリアが広がる。

特に印象的なのは床柱の彫刻である。

削り出しによって作られた装飾は非常に精巧で、空間に豊かな陰影を生み出している。

家具や建具、装飾品の一つ一つにも細かな工夫が見られ、住まいでありながらまるで芸術作品のような完成度を持っている。

和館の静けさと、洋館の華やかさ。

この対比が、建物全体の魅力をさらに引き立てている。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

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