空間に家族の営みを映す ― 

建築を学ぶと、住宅の価値が単に新築の豪華さだけではないことに気づかされる。

今回紹介する「加茂町の家」は、京友禅の作業場兼倉庫を住宅へと転用するという難題を、巧みに設計に落とし込んだ作品だ。

もとの建物の骨組みや外壁の一部を残しつつ、新しい家族の営みを受け入れる住宅として生まれ変わっている。

建築概要

所在地:京都府相楽郡加茂町

家族構成:1世帯3人家族

設計:田代純建築設計事務所

竣工年:1993年

構造:S造2階建

掲載:住宅建築253号

 特集「住み継ぐ記録 住まい改修の方法 -16題」(1996年4月)

面積

• 敷地面積:550㎡

• 建築面積:84㎡

• 延床面積:112㎡

• 地域地区:無指定地域

土地の特性を読む

京都南端、奈良との県境に近い木津川沿いの斜面に位置する。

周囲は竹林や茶畑に囲まれ、自然の緑と静けさが豊かな環境だ。

もともとは京友禅の作業場兼倉庫であった建物を、住宅として再生している点が最大の特徴。

広々とした倉庫空間を、家族の日常にどう落とし込むかが設計の核心だった。

平面図から読み解く

平面を見ると、3人家族がゆったりと団欒できるLDKが中心に計画されている。

プライベートゾーンと家族ゾーンが明確に分かれており、住み手の生活リズムに応じた合理的な動線が成立している。

教科書通りに整えられた平面ではあるが、ここで生まれるゆとりは、暮らしの快適さそのものを支えている。

断面図から読み解く

平面的には整然とした印象だが、断面から見ると住宅の魅力が立ち上がる。

居間の中央には緩やかなアーチ型天井が計画されており、天井高は3,150mm。

単なる天井の高さではなく、光と音の扱いに工夫が凝らされている。

昼は自然光がアーチ天井で滑らかに拡散し、室内全体を柔らかく包む。

夜は照明が空間を穏やかに満たし、家族の顔を優しく照らす。

さらにアーチ型の形状は、居間に集まる声や笑いを程よく反響させ、団欒の時間を空間全体で受け止める役割も担っている。

この建築の核心

田代純建築設計事務所が最も重視したのは、「家族が集まる空間の質」だ。

広い倉庫空間をそのまま住宅に変えるだけでは、居心地の良い家庭空間にはならない。

アーチ型天井を設けることで、圧迫感を与えず、光と音が柔らかく家族を包む空間を作り出している。

建築とは、人の営みと思いを空間に翻訳すること。

「加茂町の家」は、住む人の時間と声を受け止め、家族の歴史をそっと内包する住宅である。

住宅の改修や住み継ぎの価値を学ぶ上で、この建築は格好の教材だ。

ただ古いものを残すのではなく空間の質・光・音・動線まで考慮して、新しい暮らしを受け入れる建築

住み手の営みを受け止める住宅の本質を、静かに教えてくれる一棟である。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

https://www.instagram.com/sirakiji_wakyo_designs