フランスの気配を纏った、松山の静謐なる西洋館

愛媛・松山の地に佇むこの建築は、単なる「洋館」という言葉では収まりきらない、どこか気品と物語性を帯びた存在である。

それが、萬翠荘。

すぐ傍には愛媛県庁、そして山の頂には松山城が構え、都市と歴史、権威と風景が重なり合う特異な立地にある。

この配置そのものが、すでに一つの“都市的構図”を形成しているように感じられる。

建築の成り立ちと背景

萬翠荘は、旧松山藩主の子孫である久松定謨によって別邸として建てられた建築であり、独特の性格を持っている。

構造はRC造

この時代において鉄筋コンクリートを採用している点からも、耐久性だけでなく、“西洋的価値観”そのものを積極的に取り入れようとした意思が感じ取れる。

まず目を引くのは、中央に据えられた塔屋である。

天然スレートによる急勾配の屋根は、垂直性を強調しながらも、どこか軽やかに空へと抜けていく印象を与える。

この塔屋は単なるシンボルではない。

建築全体の重心を定め、左右対称の構成を際立たせる「軸」として機能している。

さらに2階には、左右に広がる3連アーチのベランダ。

この連続アーチが、水平の広がりと奥行きを同時に生み出し、ファサードに豊かなリズムを与えている。

白いタイルで覆われた外壁は、光を柔らかく反射し、時間帯によって微妙に表情を変える。

この“白”は単なる色ではなく、周囲の緑や空、さらには季節の移ろいを受け止めている存在だと感じる。

内部へ足を踏み入れると、外観の印象とはまた異なる、繊細で緊張感のある空間が広がる。

フランス様式を基調とした内装は、過度に装飾へ走ることなく、あくまで「均整」と「品格」を重視している。

壁面、建具、階段、照明など、そのすべてが互いに主張しすぎることなく、静かに呼応し合う。

高級感は確かにある。

しかしそれは、豪奢さによるものではなく、「整えられた秩序」によって生まれているように思える。

空間に漂うのは、どこか凛とした空気。

まるで人の所作さえも自然と正されるような、そんな建築的緊張が存在している。

この建築の本質はどこにあるのか。

それは、日本という土地において「西洋建築を再現すること」ではなく、

西洋的価値観をどう“自分のものとして咀嚼するか”という問いに向き合った点にあると感じる。

完全な模倣ではない。

かといって和風へ迎合するわけでもない。

その中間に立ちながら、文化と文化の間に緊張関係を保ち続けている。

だからこそ萬翠荘は、単なる異国風の建築ではなく、「日本近代における感性の翻訳装置」として存在しているのだろう。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

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