ジョサイア・コンドルが手掛けるジャコビアン様式の洋館

東京・上野の一角に、近代日本の財閥文化を象徴する壮麗な洋館が静かに佇んでいる。
それが旧岩崎邸庭園洋館である。


この建物は、三菱財閥三代目当主 岩崎久彌の本邸として建てられた。


設計を手掛けたのは、日本近代建築の礎を築いた英国人建築家

ジョサイア・コンドル

鹿鳴館や旧古河邸など数多くの名作を残した彼の作品の中でも、
この旧岩崎邸洋館は特に華麗な意匠を誇る建築として知られている。

北側ファサードを見ると、この建物の特徴がすぐに理解できる。

中央に角ドームを載せた塔屋

その塔を軸に、左右の構成は完全な対称ではない

多くの古典建築が左右対称による安定感を重視する中で、ここではあえて非対称を取り入れている。

このわずかなズレが、建築に独特の緊張感と動きを与えている。

巨大な邸宅でありながら、単調さを感じさせない理由はここにある。

この洋館を特徴づけているのが、ジャコビアン様式の装飾である。

ジャコビアン様式とは、17世紀頃のイングランドで流行した建築様式で、フランスやオランダのルネサンス建築の影響を強く受けている。

近くで観察すると、ジョサイア・コンドルの特徴でもある正方形の車寄せの付け柱、

つまりピラスターに、独特な彫刻が施されている。

植物模様、幾何学的文様、そして立体的な装飾の重なり。

これらはすべてジャコビアン様式特有の表現である。

遠くから見ると重厚な洋館だが、近づくほどに装飾の精密さが浮かび上がる。

建築を“遠景と近景の両方で楽しませる”構成になっているのだ。

この建築の最大の見どころのひとつは、階段の扱い方にある。

それまでの日本建築において、階段は単なる移動手段に過ぎなかった。

上下階を結ぶための機能的要素。

それ以上でも、それ以下でもない。

しかしジョサイア・コンドルは違った。

この洋館では、階段を建物の中心に据えている。

つまり、階段そのものを空間の主役として扱っているのだ。

階段は単なる通路ではなく、視線が集まり、空間の印象を決定づける舞台的装置となっている。

人は階段を上りながら、建築の壮麗さを体験する。

この演出は、当時の日本建築にはほとんど見られなかった発想である。

階段を中心としたホール空間もまた、ジャコビアン様式の意匠が色濃く現れている。

梁や柱の下部には、ストラップワーク(革紐模様)の装飾が施されている。

帯状の模様が絡み合うように展開し、空間全体にリズムを生み出す。

単純な直線ではなく、複雑に絡み合うライン。

この装飾が、重厚な建築に繊細な表情を与えている。

豪壮さと精密さ。その両立が、この洋館の大きな魅力である。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

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