ジョサイア・コンドルの遺作

東京・西ケ原の高台に佇む、石積みの重厚なゴシック風洋館。

それが旧古河庭園洋館、通称・旧古河邸である。

設計を手掛けたのは、鹿鳴館や三菱一号館を設計し、「日本近代建築界の父」と称される

ジョサイア・コンドル

その晩年に手掛けた本邸は、彼の集大成ともいえる完成度を誇る。

建物は約240坪の大邸宅。

煉瓦造2階建てで、急勾配の屋根を戴くゴシック風建築である。

石積みの外壁は重厚でありながら、垂直性を強調する構成により、どこか緊張感を帯びている。

尖塔的な意匠、鋭い屋根勾配。

それらは中世ヨーロッパの精神性を思わせる。

ゴシックとは単なる様式ではない。

天へと伸びる志向性、精神の高揚を形にした建築言語である。

コンドルはそれを日本の地に移植した。

しかし模倣ではない。

日本の気候、敷地条件、社会的背景を踏まえた上での再構築である。

この邸宅の特筆すべき点は、南側に大きな段差を設け、その下に広がる池泉回遊式庭園との関係性だ。

洋館のテラスから見下ろすと、広大な日本庭園が静かに広がる。

設計は庭園の名手  小川治兵衛(通称・植治)。

洋の建築と和の庭園。

視覚的にも思想的にも対照的な二つが、一つの敷地内で共存している。

庭園内には複数の個性的な茶室が点在する。

石の洋館を背に、木と土の軽やかな茶室。

重と軽。

垂直と水平。

西洋と日本。

その対比が、この邸宅に奥行きを与えている。

内部へ足を踏み入れると、さらに密度の高い空間が展開する。

壁紙の選定。

家具の意匠。

装飾品や建具の細部。

すべてにおいて、徹底した美意識が貫かれている。

単なる豪華さではない。

空間ごとに異なる表情を持たせ、居室ごとに物語がある。

まさに「洋館の教科書」と言うべき完成度である。

特筆すべきは、

純然たる西洋建築の中に和室を計画している点だ。

これは決して中途半端な折衷ではない。

当時の日本社会における生活様式の現実を受け止め、形式だけでなく機能までを包含した柔軟な設計判断である。

ゴシック風洋館の内部に、静謐な和の空間が存在する。

そこには、近代日本が抱えていた

西洋化」と「伝統保持」の葛藤が映し出されているようにも感じる。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

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