中庭が都市に呼吸をもたらす

都市に建つ集合住宅は、常に“効率”と“収益”という現実と向き合わなければならない。

しかしその中で、どこまで空間の質を高められるのか。

東京都中野区に建つこの集合住宅は、単なる賃貸経営という形ではない。

中庭を抱き込み、都市の中に内なる空間をつくった建築である。

建築概要

所在地:東京都中野区

設計:谷内田章夫/ワークショップ

竣工年:1995年

構造:RC造 地下1階 地上4階

掲載:住宅建築 1996-10

面積

敷地面積:880.65㎡

建築面積:523.89㎡

延床面積:1,636.2㎡

地域地区:第一種住居専用地域、第一種高度地区、準防火地域

土地の特性

中野区という都市的環境で、交通の利便性は高く、商いと住まいが自然に共存するエリアだ。

駅へ向かう人、仕事へ向かう人、帰宅する人。

都市の時間は常に他の地域より一歩二歩早く進み続ける。

このような場所で集合住宅を設計するということは、

「効率」と「最大容積」の誘惑に常に晒されるということでもある。

第一種住居専用地域、第一種高度地区。

高さ制限や道路斜線制限の影響を強く受ける条件下で、

いかに延床面積を確保するか。

しかし、この建築はその条件を“突破”するのではなく、

受け入れ、強み”にしている。

そこに設計の姿勢が見える。

平面図から読み解く

今回、初めて集合住宅を取り上げる。

集合住宅には階段室型など様々な形式があるが、

この建築は中庭を囲むロの字型で構成されている。

ここで一度、資本主義の現実に立ち戻ろう。

集合住宅の本質は「収益物件」である。

部屋数が多ければ多いほど利益は上がる。

敷地を隙間なく埋めれば、最大効率は実現する。

ではなぜ、この建築は中庭を設けたのか。

中庭を設けるということは、

その分、貸室面積を減らすという決断である。

つまり、短期的利益よりも空間価値を選んだということだ。

ロの字型の配置は、中庭から各住戸へ光と風を届ける。

都市の密集環境において、内側に向けた開放は極めて有効だ。

さらに四方に階段を設けることで、

各住戸への動線は極めて合理的。

入居者は最短距離で帰宅できる。

住戸内部は極めて合理的で、一般的なアパート割りに近い。

だが重要なのは外部空間との関係性だ。

一見単純な平面構成。

だがこの建築の真髄は断面にある。

断面図から読み解く

北側棟の渡り廊下が傾斜している。

そして棟ごとに階数が異なる。

これは偶然ではない。

道路斜線制限、採光条件、天空率的制約。

法規による制限を逆手に取り、

ボリュームを“ずらす”ことで解決している。

結果として生まれたのが、

単調ではない立体構成である。

さらに注目すべきはメゾネット住戸の存在

断面操作によって上下方向の広がりを確保し、

集合住宅でありながら戸建て的な体験を内包している。

廊下の傾斜は決して消去法的に行っていない。

光の入り方、視線の抜けを生む。

ここに設計者の巧みさがある。

この建築の核心

この建築の核心は、

利益構造の中で、空間の質を最大化する覚悟

である。

中庭をつくること。

棟をずらすこと。

断面をデザインすること。

それらは全て“効率”だけを追えば不要な行為だ。

しかし都市住宅において、

光・風・圧迫感の解消は、

入居者の心理的価値に直結する。

結果として、それは長期的な資産価値へと変換される。

つまりこの建築は、

短期収益ではなく、持続的価値を選択した集合住宅

なのだ。

都市において集合住宅を設計するということは、

単に部屋を並べることではない。

都市の中に“呼吸”をつくること。

中庭という空白は、

建築が都市に対して持つ、静かな抵抗であり、

同時に住まい手への優しさでもある。

白雉和京(しらきじ わきょう)

建築学生/建築学科2回生

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