ー最小単位の社会をつくる建築ー
建築概要
所在地…東京都武蔵野市境
設計…池上修一/アトリエP
竣工年…1992年
構造…RC造3階建
掲載雑誌・号数…住宅建築 1996-10
面積
敷地面積…360.31㎡
建築面積…177.08㎡
延床面積…346.83㎡
地域地区…第一種住居専用地域、第一種高度地区
La Commune
フランス語で「最小コミュニティ」
この言葉を建築に与えるということは、単なる集合住宅ではなく、社会の縮図をつくるという意思表示だろう。
最小のコミュニティとは何か。
家族だけではない。
血縁を越えた他者同士が、交差し、挨拶以上の会話を交わす関係性。
完全に閉じず、しかし踏み込みすぎない距離。
例えば、作りすぎた料理のお裾分けや休日にバーベキュー
この建築は、その曖昧で繊細な関係を空間によって成立させようとしている。
武蔵野市境という落ち着いた住宅地。
第一種住居専用地域。
過度な商業性はなく、穏やかな街並みが広がる。
RC3階建という構造選択は、木造長屋的な親密さとは少し異なる、やや硬質な印象を与える。
しかし内部構成を見ると、そこには確かな“柔らかさ”がある。
各住戸は画一的ではない。
それぞれに余白やアルコーブ、小さな居場所、奥まったスペースが組み込まれている。
同じ部屋割りを繰り返すのではなく、住戸ごとに変化を持たせている点が興味深い。
つまりここでは、“均一な空間の反復”ではなく、個性を持つ単位の集合が目指されている。
さらに重要なのは採光計画だ。
どの住戸にも光が届くよう配慮されている。
集合住宅でありがちな暗い片廊下型の住戸は見られない。
光は平等に与えられる。
それは物理的な明るさだけでなく、心理的な豊かさにも繋がる。
外観は、現代の洗練されたミニマル建築とは異なり、
どこか一昔前の佇まいを感じさせる。
だが、それが周囲の住宅地と
穏やかに調和している。
自己主張しすぎない。
街の文脈に溶け込みながら、内部で独自の社会を育む。
ここで考えたい。
本当にコミュニティは生まれるのか。
空間が近ければ、人の距離も近づくのか。
答えは単純ではない。
しかしこの建築は、少なくとも“きっかけ”を与えている。
共有部分のスケール感。
住戸同士の視線の交差。
音や気配のわずかな伝達。
それらが、
完全孤立型の集合住宅とは異なる環境をつくる。
「La Commune」の核心は、
住戸を並べるのではなく、関係性を設計すること
にある。
都市化が進み、個室化が加速する現代において、他者と関わる余白を残すことは、むしろ勇気のいる選択だ。
この建築は派手ではない。
だが思想は明確だ。
最小単位の社会を、建築によって成立させる。
白雉和京(しらきじ わきょう)
建築学生/建築学科2回生