ー音楽が息づくホール住宅ー
住宅とは、人が生活するためだけの箱ではありません。
千葉県柏市南逆井に建つ「木香の楽譜 フリューゲル・ザール」は、そのことを端的に示す住宅です。
建築概要
•所在…千葉県柏市南逆井
•家族構成…1世帯2人家族
•設計…徳井正樹建築研究室
•竣工年…1995年
•構造…木造二階建て
•掲載雑誌・号数…住宅建築 253号 特集 住み継ぐ記録 住まい改修の方法-16題、1996-5
面積
•敷地面積…459.77㎡
•建築面積…185.78㎡
•延床面積…215.70㎡
•地域地区…住居地区、第2種高度地区
土地の特性を読む
敷地は昭和時代に開発された閑静な住宅地に位置し、多様な地域コミュニティーに囲まれています。
住宅の形態は周囲に溶け込みながらも、建築家の意思が随所に見える配置となっています。
特に半円形の塀や中庭の設計は、静かに街並みと呼応しながら、音楽空間としての独自性を主張しています。
平面図から読み解く
平面図を見ると、部屋の名称にまず目を奪われます。
「ホワイエ」「食堂」「レッスン室」「ホール」 まるで住宅ではなく、コンサートホールの図面です。
エントランスから中庭、そしてホールへとつながる動線は、演奏者と聴衆、生活と創作を緩やかに接続しているように感じられます。
空間の広がりはただの視覚的効果ではありません。
構造部が意図的に見える位置に設けられ、光と木材の質感が絡み合うことで、視線は自然に奥へ奥へと誘われます。
中庭も周遊可能で、住宅でありながら散策するような体験ができる点は、伝統的な住宅設計ではなかなか見られない大胆さです。
断面図から読み解く
断面を見ると、ホールの天井は段差状に設計されていることが一目で分かります。
この段差は単なるデザインではなく、音響設計としての意図も兼ねており、光と音の両方で空間を支配します。
写真を見るとさらにこの意図が際立ちます。天井の高さや照明の配置、木材の質感が組み合わさり、空間全体が一種の「幻想郷」のように感じられます。
夜、月明かりと天井から垂れた照明だけでモーツァルトを奏でる姿を思い浮かべると、住宅が単なる住処ではなく音楽を生む舞台であることが理解できます。
この建築の核心
「木香の楽譜 フリューゲル・ザール」の最大の魅力は、空間の使い方と構造の見せ方です。
• エントランスから中庭へ、ホールへと続く動線
• 空間を遮る構造を工夫して奥行きを演出
• 木材の暖かみを活かした素材選定
これらにより、住宅でありながら時間がゆっくり流れる特別な空間が実現されています。
中庭の配置や周遊できる設計は、伝統的な日本庭園の概念に依存せず、革新的な体験として時が止まったような空間を作り出しています。
白雉和京(しらきじ わきょう)
建築学生/建築学科2回生